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「アップんダウン」誕生秘話

1.「ノイ」について

 実は「アップんダウン」には原型となるカードゲームがあります。1988年に発売されて、今では定番のゲームとなっているおもちゃ箱イカロスさんの「ノイ(neu)」です。何を隠そう、35年前にこのノイを開発したのは、私(モザイクゲームズ店主)を含む日本ゲーム協会(JAGA)の有志メンバーでした。当時、似たタイプのカードゲームとして、「キャッチ101」「101」「オーノ99」といったゲームがありましたが、それらのゲームをより洗練させて、バースト系ゲームの決定版を作ろうという意気込みで作成したのが「ノイ」でした。おりよくJAGAに参加されていたイカロス社長の石井さんがプロデュースしてくれることになり、「ノイ」の商品化が決まったのです。

 もう35年も昔のことで、記憶が薄れている部分もありますが、「ノイ」の開発を提案してプロジェクトを引っ張ったのはメンバーの小田さん、「ノイ」というネーミングを考案したのは瀧川さん、ルールブックを執筆したのは大島さん、私はと言えば、カードの表面のデザインや初期のパッケージ(通称白箱)のデザインを担当しました。当時はまだ個人がパソコンでデザインできる時代ではなく、インレタ(インスタントレタリング)というフォントのシールを使ってデザインをしたのでした。ちなみに「パス」「ターン」「ショット」という「アップんダウン」でも採用した特殊カードのアイコンも私のデザインです。(「ノイ」の面白さを倍増させた「ショット」というカードを発案したのは、著名なボードゲームコレクターでもあった小田さんです。)

白箱パッケージのノイ

 「ノイ」は発売当初からベストセラーゲームだったわけではないと思いますが、イカロスさんの地道な販売努力と、おそらくゲーム自体のポテンシャルもあって、いまではすっかり定番ゲームとしての地位を確立したものと思います。開発者のひとりとしては、感慨深いものがあります。

2.35年目のバージョンアップ?

 「ノイ」は子供から大人まで、ゲーム初心者からベテランまで、一緒に遊ぶことのできるとても優れたゲームなのですが、私個人にとっていくつか不満な点があるのも事実でした。ひとつは3枚の手札ではプレイの選択肢がとても少なく、戦略を発揮する余地があまり無いこと(まあ、このゲームに戦略性など求めるなということなのですが)、またひとりが負けた時点でゲームが終わってしまうので、せっかくいい手が来てもそれが生かせない場面がたびたびあること(これもこのゲームの面白いところですが)、そしてこれは個人的な感覚なのですが、暗算の苦手な私にとって簡単な足し算も少し面倒に感じてしまうことがあるという点です。

 で、ある時、「計算が要らないノイ」というのはできないだろうか?と考えて思い付いたのが、「アップんダウン」で採用した「1の位が同じなら数字を下げられる」というアイデアでした。これなら足し算を習っていない学齢前のお子さんでも遊べるかもしれない(最低限数字が読めることは前提ですが)、また暗算が苦手な私のような大人でも抵抗なく受け入れられるだろう。ただそれだと手札3枚では少ない気がするし、ある程度カードの枚数がないと多人数でプレイした時にすぐに山札が尽きてしまう。で、テストプレイを重ねた結果、1から100までの100枚に特殊カードをプラスし、手札は5枚とする「アップんダウン」の構成になりました。

 あとはルールの基本として、「ノイ」では1人がバーストするとそこで1ゲーム終了になるのに対し、最後の1人まで勝ち残り戦を行うことにしました。早々と負けてしまった人がゲームの終了を待たなければならないというデメリットはありますが、だんだん脱落者が増えて、最後に優勝者が1人決まるという展開は緊張感があって面白いだろうと思ったからです。ゲームの終了条件としては、1人が3回優勝したところで1ゲーム終了としました。これも「ノイ」の1人が3回脱落したところで1ゲーム終了というルールに習ったものです。

 ひとつお断りしておきますと、「アップんダウン」は決して「ノイ」に取って代わろうというゲームではありません。両者は面白さの目指す方向が違うと思っています。「ノイ」の楽しさは、場の数字がだんだん101に近づいていくなかで、自分がバーストしてしまうかもしれない、そのドキドキ感にあります。「アップんダウン」の方は場の数字がその名のとおり大きくアップダウンしますから、だんだんクライマックスに近づいていくというより、大きな数字の攻撃が仕掛けられて万事休すかと思った時に、あっさりその攻撃がかわされてしまう、その展開の目まぐるしさに面白みがあると思います。(まあ、その面白さがうまく実現できているかは作者には断言できないところですが・・・。)もしも「ノイ」を楽しんでいただいている方には、ぜひ「アップんダウン」も試していただきたいですし、「アップんダウン」を気に入ってくださった方には「ノイ」も遊んでいただきたいと思います。

3.ゲーム制作の裏話

 私たちがボードゲームのサークル活動を始めた37年前には、個人が考案したゲームが製品化されるなどということは夢のまた夢でした。ところが現在では、たくさんのゲームファンのみなさんが自分たちでボードゲームやカードゲームを開発し、製品化しています。しかもその品質は年々向上しているように感じます。私も2人用のボードゲーム「モザイク」を製品化していますが、もっと大人数でワイワイ楽しめる、言ってみれば売れ筋の(?)ゲームもラインナップしたいとかねて思っていました。いろいろアイデアはあるのですが、一番のネックはゲームのグラフィックデザイン(アートワーク)をどうするかということでした。

 最近はボードゲームやカードゲームの製作を請け負ってくれる印刷会社もたくさんあって、多少の費用をかければ少部数から注文することができます。ただ、どの印刷会社も入稿原稿はイラストレーターというソフトで作ったaiファイルを条件としていて、イラストレーターは持ってもいないし使ったこともない私にはお手上げだったのです。そんな時にボードゲームフェスタまいたーん!の所長さんからCanvaというソフトのことを聞きました。これは専用のソフトを買わなくても、ブラウザ上でデザインができるフリーのツールで、比較的安いサブスク費用を払えば商用向けの機能も使えるというものです。まあここでCanvaの宣伝をするつもりはありませんが、これを使えばとりあえず簡単にデザインができて、印刷会社への入稿もできる。完成したデザインは素人っぽいものかもしれませんが、ゲームはデザインよりルールだと信じている私には、これで十分でした。

Canvaの画面

 製作は「モザイク」の外箱でもお世話になっている多治見市内のホワイトハウスさんにお願いすることにしました。パッケージの専業メーカーですが、カードゲームにも実績があるということで、今回はいろいろと無理をお願いしてしまいました。なるべく原価を低く抑えたいので、パッケージも高級な貼り箱ではなく、ダンボールの折り箱を採用しました。(お気づきの通りここでも「ノイ」のパッケージを参考にさせてもらいました。^^)カード本体は折れにくく汚れにくくするためにコーティング処理をお願いしました。ここは費用がかかりましたが、カードゲームにとってカードそのものの堅牢さは何より重要だと考えたからです。

 当初、ゲームにはモザイクタイルのチップを同梱しようと思っていたのですが、これはコストやパッキングの手間の関係で断念せざるを得ませんでした。特にイチオシの「キャリーオーバー」というゲームでは、チップの利用がマストなのですが、ここは遊ぶ方に別途用意してもらわなければなりません。この点は申し訳なく思っています。ゲーム用のチップはいろいろなところで役に立ちますので、お持ちでない方は1セットお手元に備えておくことをおすすめします。(ちなみに私が愛用しているのはこちらのチップです。)

 そのほかにも今回初めてカードゲームを製作してみて、いろいろ学ぶことがありました。カードやパッケージのデザインをする時、使用するフォントや図形にも著作権があり、商用利用が可能かどうかの確認が必要なこと、印刷データの色をRGBからCMYKに変換しなければならないこと、商品に付けるバーコード(JANコード)を取得するためには、流通システム開発センターというところに申請をして登録料を支払わなければならないこと(これが結構高いんです)。まあ、商品開発の経験がある人には当たり前のことだと思いますが、手作りの「モザイク」を制作販売しているだけでは知り得なかったことがいろいろ分かりました。

 これまでモザイクゲームズは、2人用のボードゲーム「モザイク」の専業メーカーでしたが、新しいゲームを創る楽しさを久々に味わいました。このゲームのデビューの場となる名古屋ボードゲーム楽市の新作ゲームコンテストでは、最初の書類審査で落選してしまいましたが(笑)、もしも製作費が回収できるくらい売れたなら、次回作にも挑戦したいと思っています。ぜひ遊んでいただいたみなさまのご意見を伺えたらうれしいです。

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